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復讐のゆくえ

忘れえぬ面影シリーズ, 第1巻

リンダ・ハワード、ノーラ・ロバーツ、ダニエル・スティールなど、アメリカを代表する作家の作品と肩を並べる小説が、ついに日本上陸!
『NYタイムズ』、『USA Today』のベストセラー作家、Nadia Leeがお届けする待望のシリーズ作品、忘れえぬ面影(原題:Seduced by the Billionaire series)初登場です。

みなさんはナディア・リーという名前を聞いたことがありますか。
おそらく大半の方がないのではないかと思います。ですがこの作家、全米ではかなり有名人で、2014年1月9日と16日、USA Todayの記事に二週連続で掲載されました。それ以来、今日に至るまで人気は衰えることを知らず、電子書籍のダウンロード数は、本シリーズだけでも実に累計45万部を超えています。それに他のシリーズと紙の本を含めると、90万部近くが読まれていることになります。また、全米で40,000冊以上のロマンス小説がしのぎを削る中、彼女の本はiBookにて7週連続5位をキープしたそうです。ちょうどこのシリーズが世に出たころでした。
そんな小説ですから、面白くない訳がありません!
スピード感あふれる展開、他には類を見ない鋭い切り口、誰もが『とりこ』になるのは間違いなしです。

〈第一弾『復讐のゆくえ』のあらすじ〉
デイモン・ディフェンス・エンジニアリング(DDE)に勤務するナタリーは、失恋から立ち直れず、ひたすら仕事に打ち込んでいた。そんなある日、直属の上司がクビになったと聞かされ、ナタリー自身もCEOのアレックス・デイモンに呼び出される。
私も辞めさせられるのだろうか。ナタリーの心配をよそに、アレックスのした提案とは……。

エミリー・ロデイル。あの女だけは許さない! 何があっても復讐を遂げてやる。そう思い定め、必死で現在の地位にまで上り詰めたアレックス。
ロデイル・インターナショナルとの競争入札に敗れたのは社内にスパイがいるからではないかと疑った彼は、入札責任者を解雇する。その際、ある部下のプロフィールを偶然調べたのだが、その部下は宿敵エミリーと親しい上院議員ブライアンの娘だと判明する。
ほほう、これは面白いことになりそうだ。ナタリーという駒をどう動かしていこうか……。

ナタリーは本当にスパイ行為をしたのだろうか。
アレックスは復讐を成し遂げられるのか!?

圧倒的な人気を誇るシリーズ作品book 1の原題:「Taken by Her Unforgiving Billionaire Boss」

 

キンドル・アンリミテッド(読み放題)にて絶賛発売中。

第一章試し読み

バサバサバサッ——。

傘に貼りついた雫を大慌てで払い落とすと、冷たい水があちこちに飛び散った。

タイソンにあるデイモン・ディフェンス・エンジニアリング社に入り、ナタリーはロビーを横切ってエレベーターへと急ぐ。

大理石のフロアに、ハイヒールのコツコツという音だけが響いていた。

焦っているときほどエレベーターもすぐに降りて来てはくれないもので、身体中から汗がどっと吹き出てくる。

今日は朝からついてない。州間高速道路で事故が三つも重なったために大渋滞を引き起こし、車が全く動かなくなってしまった。そのせいで、首都ワシントンとバージニアを繋ぐ道路が、まるで巨大な駐車場と化していた。やっと抜け出せたと思ったら、今度は高速の出口まであと少しというところで、後続車に追突された。事情を聞けば、運転していた男は携帯電話に夢中になっていたという。相手に食ってかからなかったのが不思議なくらいであった。

そうだ、人目を引いてはいけない。常に沈着冷静でいなくては。特に今年は、どんな些細な失態も犯すことはできない。少しでも世間の注目を浴びてしまえば、母のルイーズは決して許してくれないだろう。

『お父さまのキャリアに傷をつけては絶対にダメ!』

これが母の口ぐせだ。今までに何度その言葉を聞かされたことか……。

チリン……。エレベーターの到着を告げるチャイムが柔らかく鳴った。その音で我に返ったナタリーは、乗り込みながら腕時計をチラッと見た。時計の針はすでに十時半を指している。

一時間半の遅刻だ。今日のミーティングを召集したのは他の誰でもない、この自分なのに!

遅れることを同僚に伝えたかったのだが、今朝に限って、携帯電話をキッチンテーブルの上に置き忘れたまま家を出てきてしまったのである。

エレベーターの鏡で全身をすばやくチェックする。黒いスカートの皺を伸ばし、目を閉じて深く息を吸った。

落ち着かなければ。ジタバタしたって、今更どうにかなるものでもないのだから。

新しい週が始まったばかりだというのに、ナタリーは早くも疲れを覚えていた。が、まだ何かが起こりそうな胸騒ぎを覚える月曜日だった。

 

十五階に到着し、エレベーターを降りてカーペットに足を踏み出す。いつもなら、すりガラスの窓を通してフロア全体に日の光が淡く注ぎ込んでいるのだが、今日は様子が違った。全てがどんよりとしたグレー一色だ。

アシスタントのダニエール・ハートマンが慌しく駆け寄って来た。彼女はまだ二十二歳でとても若いのに、オシャレやダイエットには全く気を遣わない。くすんだ色のパンツスーツはきれいな瞳に全然映えていないし、やぼったいメガネもいただけない。つややかな茶色の髪には寝癖さえついている。たとえ高校時代はダサくても、社会人になって数年も経てば、普通ならもう少しセンスが磨かれるものではないのか。しかし、ダニエールはそんなものとは無縁らしい。せっかくのなめらかな肌と素敵な笑顔がもったいない、とナタリーはいつも思うのだった。

「ああ、やっと来られましたね!」

「どうかしたの?」

「ラルフとビビアンが解雇されたんです」

「なんですって!?」

ラルフというのはこの会社の重役だ。ビビアンは彼の右腕であり、ナタリーの直属の上司でもある。

「今朝、CEO本人が突然やって来ました。そしてお二人とも、先ほど警備の人につきそわれて出て行きました」

アレックス・デイモン自ら?

ナタリーは身体中から力が抜けていくのを感じた。

「ミスター・デイモンからの伝言で、至急来てほしいとのことです。今、ラルフのオフィスに、いえ、オフィスだった部屋にいらっしゃいます」

 

イヤな予感の正体はこれだったのか。

 

迷路のような通路を歩きだすと、周りの人間が仕切り越しに集まり、ある者は気の毒そうに、ある者は不安そうにナタリーをちらちら見ていた。みんながどんなことを考えているのか、容易に想像はつく。

——彼女もクビになるんだな。

——次は私の番かも……。

ラルフのオフィスのドアは半開きになっており、彼のプレートはすでに外されていた。長年使用されてきたために、象牙色の壁が変色し、ややくすんでいる。対照的に、ピカソの複製画が掛けられていた跡(あと)だけはきれいなままだった。つい昨日まで家族の写真や記念品で溢れ返っていたオフィスも、今は殺風景で何もない。

黒髪の男が重役用の革椅子に腰掛け、身体ごと窓のほうを向いている。どしゃぶりの雨のせいで、その肩越しに見える道路や赤いブレーキランプも霞んでいた。

男は陽に焼けた手に携帯電話を持って誰かと話していたが、声があまりに低く、話の内容までは聞き取れない。

ナタリーは深呼吸すると、ゆっくり十まで数えて気持ちを落ち着かせた。

デイモン・ディフェンス・エンジニアリング(DDE)の社長であり、かつ親会社のグローバル・ストラテジー・コーポレーションのCEOでもあるアレックス・デイモン、そんな大物と対峙するには、心の準備が必要だったのである。

セレブ専門のゴシップ紙に度々登場するので、写真ではイヤというほどお目にかかっていたのだが、直に会うのは今日が初めてだ。彼は、世界が認めた『結婚したい男性ベストテン』のうちの一人に堂々と名を連ねていた。実力で成功を収め、今や億万長者にまでのし上がった男としてよく知られている。ゆえに、その動向は常に注目を集めていた。

通話を終えて携帯をしまうと、アレックスはこちらを振り向いた。

「なんだ?」

押さえつけるような冷たい声。

座ったまま見上げてくる瞳は鋭く、その身体からは支配者特有の威圧感と男性的魅力が同時に発散されていた。一目で高級仕立てとわかる黒っぽいスーツを着こなし、少なくともうわべだけは紳士然としている。しかし中身は粗野で喧嘩っ早く、本能で生きる『野性の雄』そのもの、それを鉄のような自制心で抑えている。そんな印象をナタリーは受けた。

「ナタリー・ホールです。こちらでお待ちだと、アシスタントから聞きました」

声が震えなくて、本当によかった。ビクビクしていると悟られたくない。

アレックスはわずかに眉をひそめ、彼女の顔を凝視した。『ホール』という苗字の人間が、まさかアジア系だとは思ってもみなかったのだろう。

無遠慮とも言える視線が、頭の天辺から爪先までさまよう。その目で服を一枚ずつ剥ぎ取られ裸にされていくような錯覚に陥り、ナタリーは思わず赤面した。

——ばかな私。

クビになると聞けばどんな反応をするか、それを見定めたいだけかもしれないのに。

彼は椅子から立ち上がり、デスクを回って片手を差し出してきた。

「アレックス・デイモンだ。よろしく頼むよ」

バリトンの声が少し柔らか味を帯び、ナタリーは自分の身体がふわっと包まれたような感覚を覚えた。

「こちらこそ、お会いできて光栄です」

がっしりした温かい手を取って握手に応じる。

アレックスはドアを閉めると身振りで椅子を示し、「かけてくれ」と言った。

「ありがとうございます」

ノートパソコンとバッグを椅子の傍らに置き、ナタリーは脚を組んで座った。何となく視線を感じてちらっと見上げるも、アレックスは自分用の椅子を奥からガタガタと引っ張っていて、こちらなど見向きもしていなかった。

気のせいだったのだろうか。

——興味ゼロ?

それもそうだろう。うわさでは、彼はスタイルの良いモデルたちとばかりデートしているらしいから、自分などものの数にも入らないに違いない。

 

それでも、自慢の脚を無視されたことが何となく面白くなかった。

 

狭いオフィスの中、相手を警戒させないギリギリの空間を保ちながら、アレックスは彼女の向かい側に腰を下ろした。

彼の身体から漂う熱気やコロンのほのかな匂いに触発され、そわそわと落ち着かない気分にさせられたが、ナタリーはそれを意志の力で封じ込めた。

ロマンティックなムードに浸っているときではない。場所も不適切なら相手も間違っている。仕事とプライベートはきっちり区別しておくべきだ。

「病院に寄ってから出社する、ときみのアシスタントから聞いたが?」

心に芽生えたモヤモヤを吹き飛ばすほどの鋭い声が響いた。「もう良くなったのかい? 顔が少し赤いようだけど」

ナタリーは動揺しているのを悟られまいと、必死で取り繕った。

いつもなら仕事のプロとして冷静な態度が取れるのに、今日はどうしたことだろう。

「大丈夫です」

なんとか微笑みを浮かべ、すばやく思考を巡らした。

ダニエールが言い訳しておいてくれたらしいが、目の前の男に対して嘘で取り繕うのは大きな間違いのような気がする。

「何か行き違いがあったようですね、すみません。実は、高速で追突されてしまいまして」

「……」

「あっ、いえ、大したことにはなりませんでした。でも、環状道路の中心部での事故がどんなものか想像つきますよね?」

と、大急ぎで付け加える。

アレックスが頷くのを見て、ナタリーの緊張はほんの少しだけ解けた。だが、それも彼が脚を伸ばしてくるまでのことだった。引き締まった筋肉のせいでスラックスがきつく引っ張られ、ふくらはぎがもう少しで彼女の脚にくっつきそうになると、再び気持ちが張りつめてきた。

「仕事の話をしようか。すでに聞いていると思うが、今朝、ちょっとしたトラブルがあった」

用心深く頷いたものの、話がどんな方向に向かうのかナタリーには見当もつかない。

「ラルフには辞めてもらった。彼の後任がイギリスのカイッサ・エンタープライズから来ることになっている。グローバル・ストラテジーの子会社の一つだ」

ラルフの仕事を引き継ぐ能力のある人材なら、DDEにもたくさんいるはずだ。それをわざわざヨーロッパから重役を迎えるとはどういうことなのだろう。

「ビビアンも一緒に辞めてしまったから、きみに頼るしかなくなった。彼女が最も信頼していた部下だと聞いてるが?」

「そのように自負しております」

「よろしい。後任者は近日中に到着するだろう。彼が出社したら、引継ぎに手を貸してやってほしい」

ということは、辞めさせられるわけではないのだ。

安堵の溜息を漏らさぬよう、細心の注意を払いながら返事をする。

「承知しました」

「それと、現在進行中のプロジェクトについて、要点を教えておいてくれないか。新たな体制が軌道に乗るまで、しばらくの間は僕自身が関与しなければいけないからね」

ナタリーは一瞬ポカンとした。

確か昨日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』には、彼が近いうちに上海に戻る予定だという記事が載っていたはずだ。

急成長を遂げる中国市場への事業参入は、グローバル・ストラテジーにとって巨万の富をもたらすことが確実視されている。その全面的なプロジェクト計画を推進するにあたっては、アレックスが責任者として統制しなければならないはずだ。DDEがそれなりの規模の会社とはいえ、数ある子会社のうちの一つに過ぎない。だから、社内の一重役の引継ぎ作業が、トップ自ら積極的に関与するほどの重要事項だとは、とても思えないのだ。

少し身体をずらしたアレックスが、正面から見つめてきた。そのとき互いの脚が軽く触れ合い、ナタリーは内心でドキッとする。

「今晩、何か予定があるかい?」

唐突すぎる質問に趣旨が今ひとつ飲み込めぬまま、ナタリーは首を横に振っていた。

「それはよかった」

そう言って、彼が魅力的な笑顔を向けてくる。「ディナーでも一緒にどうかな」

前の恋人と別れて半年、仕事一筋に打ち込んできたナタリーだ。仕事は、決してマーカスのように裏切ったりはしないから。別れてひと月も経たないうちに、彼が別の女性に求婚したと聞いて、軽い男性不信にも陥っていた。

さらに、たとえトラウマなど抱えていなくても、また相手がどんなにステキな男性であっても、社内恋愛にうつつをぬかすつもりは毛頭ない。そういうものは、キャリアを伸ばしていこうとする人間にとって最大の妨げになる、と過去の苦い経験から学んでいた。

彼女は刺すような視線をアレックスに向け、その真意を探ろうとした。

「社内の重要事項について、もう少し話がしたい。だが、僕の昼間の予定はぎっしり詰まっているから、できれば夜のほうが都合がいいんだ。週明けから残業させて申し訳ないんだが、他に時間を取るのが難しくてね」

「……」

いたってビジネスライクな口調でありながら、ナタリーが答えないのを面白がっているような気がして仕方がない。

勘違いしていると思われただろうか。こちらに興味があって誘っていると。

——イヤだわ!

彼女は姿勢をまっすぐに伸ばして答えた。

「わかりました」

「あとで秘書のエレノアから確認メールを送らせるが、七時頃でどうかな」

「大丈夫です」

そう答えて立ち上がり、改めて彼と握手をする。大きく力強い手に圧倒されそうになりながらも、なんとか相手から目を逸らさないよう心がけた。

そして自分の荷物を抱えると、失礼します、と言い残して部屋を出た。

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